B3-W06,N06にて

扉を開けた瞬間、殺意に満ちたような視線が部屋のどこかから刺さるのが分かった。ソーマが剣を抜く、俺も―戦士には不釣合いなのだが―粉砕のメイスを構えた。
「敵が居る、気を付けて」先頭のミアノが俺たちに注意を促した、瞬間それはおぞましい姿となって実体化した。陰からのそり、と、毛で覆われた巨躯が力を持て余す様に、埃くさい虚空に素振りをした。その切っ先には研ぎ澄まされたような刃が備わっている。切り裂き魔のような爪を持つ、ブレードベアという魔物だ。
しかしそれだけではなかった。その奥―空中を漂う白煙のような物体。それらは各々動物のような姿に変形している。ある者は馬、ある者は牛…スモッグビーストという強敵だ。魔法を操り、高い生命力を持つ厄介なヤツだ。現に、俺たちはスモッグビースト七体に対し、一体も倒せないまま戦士のソーマと、魔法使いのガイガーを殺され、命からがら逃げ帰った事がある。
「ガイガーは後列にマダルト!エルはカティノを熊に!チルコはリトカンを!」
刹那、熊どもが迷宮全体に響くような大声を上げた。俺は怯まず、メイスを熊のどてっぱらに打ち込む。二回、三回。三回だ。三度熊にメイスを打ち込むと、その一匹は口から泡を吹き倒れた。
「ゴツイが、いい得物だな」そう言うとソーマが片手の剣でもう一匹の熊の喉元を突く。同時に、エルのカティノが熊を襲った。巨大な動物は糸が切れたかのようにバタバタと眠った。
次いでマダルトとリトカンがスモッグビーストに振りかかる。猛吹雪、そして灼熱の攻撃。しかし、それでもやつらは数体、生き残っている。
「とんでもない化け物だ」
ガイガーがゴクリと喉を鳴らす。ミアノがブレードベアを始末すると、スモッグビーストたちの身体が不気味に発光した。カティノがパーティを襲い、ハリト、メリトが何発も放たれた。地味な攻撃だが、何度も畳み掛けられると体力のない者にとっては致命傷になる。実際、ビショップのエルがハリトの直撃とメリトの波状攻撃で倒れた。
「クソっ」
かなりの体力を削り取られた。俺はメイスを握りなおしスモッグビーストに叩き込む。ボフンと、煙が霧散する。一体は仕留めたようだが、まだあと四体。
「ウィケリ、下がって!」
チルコの詠唱と共に、突風が吹き荒れた。空気の刃で敵を切り裂く、ロルトだ。スモッグビーストどもが次々に空気の塵と化した。
「まだ1回しか使えないんだけど」
駆け寄ると、チルコがホッとしたような、しかし満足げな顔で戦果を報告する。ブレードベアもカティノが成功したおかげでソーマとミアノの二人が片付けていた。
「そうだ、エル」
俺はばったりと伏しているエルを持ち上げる。息はしていなかった。仕方がないが、今日はここまでだ。
「階段へ急ぐぞ」と、お宝もそこそこに部屋を後にした。