maidentity2004-08-11

藤子F先生のストーリーテラーとしての才能はSF短編集だけでなく、時に学習雑誌で掲載されていた連載マンガなどでもその頭角をあらわすのですが、短編で多岐にわたるジャンルで見事にテーマを昇華してしまっている(劇画はやや反則かも知れませんが)のは一重に、彼が「すごい」からとしかいいようがありません。
大長編ではその傾向は顕著に表れているように思えます。
私が特に好きな(当時の年齢の兼合いもありますが)「鉄人兵団」では所謂「ロボットアニメ」を意識した作りになっていますが、ラストにかけてのカタルシスはもはや伝説並だと思います。
大長編一のカタストロフは「雲の王国」だと思います。「ノア計画」と呼ばれるそれは、一度大津波で地表を洗い流した上に、雲の上の人々によって新しく世界を作りなおすって、「こんなマジなテーマ、ドラえもんにアリ?」みたいな気分にさせられたものでした。おりしも当時は環境問題やリサイクル運動などが活発に始められたくなった頃です。氏の時事ネタを取り入れ、それをマンガ風に味付けして組み立てる力には心底、恐ろしい感までもを覚えます。
アニマルプラネット」ののび太の孤軍奮闘振りや、「竜の騎士」の伏線とクライマックス、「パラレル西遊記」のホラー(のび太のママが階段上るシーンは劇場で凍りつきました)など、氏のトライアル精神とでもいいましょうか、それらは毎回「次はどんな路線だろう、楽しみだなあ」というワクワク感を感じられずにはいられませんでした。
お亡くなりになった後続けられている作品は無論、氏の志を大きく受けとめなければならないのですが、最近はどうもお涙頂戴的な(それが悪いわけではなく、ここの所テーマが重複してるんじゃないかという感が在るので)路線に少し閉口気味なわけです。
そんな意味で、再来年春の大長編延期は商業的な都合ではなく、ストーリーをもっと推敲して今まで以上によい作品に作り上げてるんじゃないかなあと、どうも期待してしまいます。

「こんにちは、ぼく……」