迷宮の中の懲りない面々

maidentity2005-01-22

草薙の、マカニトが発動するはずだった。
だがしかし、目の前のポイゾンジャイアントは俺たちよりもはやく、毒のブレスを吐いたのだ。当然の事ながら、元々体力の少なかった草薙は死んだ。チッ、と頭の中で呟く。
仲居と香取の攻撃で一体は仕留めたものの、残り二体。もう一体と剣を構えようとした俺より素早く、とてつもないスピードで近づくものがあった。ウィル・オー・ウィスプと呼ばれる魔法で生を与えられたその物体は、勢いよく仲居に衝突した。先ほどのブレスで消耗していた仲居はあっけなく、息絶えた。
「ゴロー!森にマディを!」
俺は無我夢中で叫んだ。ブレスを食らって大火傷を負った森に、暖かい光が注がれる。まだだ。まだ、いける。いや、ここで勝たなければ城に帰るワープゾーンに辿りつけないのだ。しかし、俺の剣はポイゾンジャイアントに致命傷を与える事が出来なかった。再び、ポイゾンジャイアントの口からブレスが注がれる。先ほどから前線で戦っていた香取が、ついに倒れた。それを確認すると、俺たちは三つある死体を抱えるように指示した。ポイゾン相手は、もうムリだ。そう、脳裏に駆け巡る何かがあった。
「退避!」
後ろのドアを蹴破り、玄室から這出た。横には既に死体が三体。あとは俺を含めてボロボロになった稲垣と森。
「―ロクトフェイト…?」
「いや…それはダメだ」
折角手に入れたカシナートや、極上の鎧を手放すのは惜しいし、なにより三人の治療費の事もあった。すべてを失って帰還するのは、俺のプライドが許さない。
「シーフか、メイジ」
ロルトで一掃できる連中が望ましい。体力を回復させ、再びドアを蹴破った。


―グレーターデーモン


青銀の肌を持つ巨躯は、まるで昆虫を採集しに来た子供のような目を湛えて、俺たちを見下ろしていた。逃げなければ、しかし、俺の―いや、後ろにいた稲垣も、森も―足が、地にべっとりとついて動かなかった。野鳥狩りで、猟犬に睨まれた小鳥の様に、俺たちは冒険者以前のか弱い"魔族ではない者"として扱われていた。地下十階の冷たい空気は、久々に巻き散る血に、唸りを上げて渇望の叫びを起こした。


やがて、彼らににマダルトの洗礼が襲った。冒険者木村の、そこからの意識は無い―