うそwizardry日記2

そのあとはというと、西洋と東洋と近代が微妙に交じり合った街*1を半ば夢うつつという感じでさ迷い歩いた。革靴が石畳の道をこりこりと音を立てる。すれ違う人々もここはニューヨークかと言うくらい*2のさまざまな人種が混在していた。最初、何かのテーマパークかと思ったが、小高い丘まで歩くと、この街は西洋風の城(それこそ、テーマパークにおあつらえ向きの)を中心に城下町、更に東西南北それぞれ4つの門を備えた城壁が取り囲み、その向こうは牧歌的というか、現代日本のどこにも存在しないような、だだっ広い平原が地平線を描いていた。
そして、僕はここが日本ではなく、どこか違う世界―厳密には、"地球上ではないが、地球の文明ベースの混沌とした世界"―だと気付くにはもう少し時間が必要だった。


そして。今僕は独房のような牢屋の様な、それとも留置所かな。「ココはどこでしょう?」と街行く人にアンケートを取ると回答が以上の3つで占められるであろう、酷く環境の悪い場所にぶち込まれている。薄暗くてなんだかじめじめしているし、変な匂いがする。座りたくないけれど、さっき街をうろついていた僕をここまで拉致した連中―ファンタジーかゲームに出てくるような、西洋風の甲冑を着ている―と同じ格好をした番人が「座っていろ」と言うので、仕方なく冷たくてごつごつした石畳の上に体育座りをしている。じんわりと、下着まで水っぽい何かが染みてくる感触がした。最悪だ。
拉致られる途中僕は必死に抵抗したが、拳が痛いだけだった。逆に、あちらさんの鉄拳が僕のみぞおちを的確に捉えて、気絶し、そしていつのまにやら、という次第だ。ここまできたら、もう恐竜が来ようと宇宙人が来ようと怖くないぞ。


四畳半くらいの部屋には眼前の鉄格子以外見当たる物はない。目を細めなければ見えないような暗闇の向こうからは、別の部屋に入れられているであろう誰かが叫び声を上げていた。数えてみれば、ぴったり10秒おきにガラスを擦ったような、男とも女とも付かない奇声を上げている。
50回くらいを数えた頃だろうか、急に立て、と言われて顔を上げた。例の甲冑がまた3、4人ほど鉄格子の外に居て、小さな扉の鍵を開けた。一体どうなるんだろう。なにも悪い事をしてないつもりだが、想像がつくのは拷問かギロチンくらいなもんだ。僕は恐怖した。
「いいから来るんだ」
そんな事を言われつづけて階段を上り、薄寒い屋外の廊下を渡らされ、頑丈そうな鉄の扉のある部屋に入れられると目の前に数人の屈強な男がいることを確認して、騒ぐのをやめた。
落ちついて周りを見渡すと、僕から見て側面の壁にはタペストリーやペナント、宝石が各所にちりばめられた装飾鎧、右には、腰くらいの高さのいい具合に色が馴染んだチェストが備わっている。そして左、今度は逆に僕より背の高いキャビネットがそびえ、ガラスの向こうで色とりどりのカップが配色センス抜群で僕を出迎えていた。そこで僕は、ガラスに映った自分の顔が、昨日の朝、洗面台で確認した自分の姿より酷く狼狽している事に気付いた。
そして正面には。恐ろしく細かい装飾と彫刻が施された円卓と、向こう側半円分を使って均等に並べられた椅子に座った3人の男が僕を凝視していた。ただ、奥の壁が全面窓だったのでまぶしい光が僕に降り注ぎ、逆光で3人の表情を伺う事はほとんど出来なかった。
しかし、その中に見知った顔があった。僕から向かって右側の席。あの男は、今朝馬小屋にいたオッサンだ。忘れられようもない例の鎧を着て、僕を見ると片方の眉根を上げた。
「ん?お前、今朝の…」

*1:馬車がとおる横で、ちょんまげをした耳の長い外人が自販機でコーラを買っているのだ!

*2:僕はニューヨークどころか海外旅行にすら言ったことがない。これは想像である。